対談_後編

若者の「働く」と「働き続ける」を応援する認定NPO法人育て上げネットの理事長である工藤啓さんと、ゴールドマン・サックス(以下、GS)の証券部門で働く尾本和哉さんは、どちらも4人のお子さんの育児中。育休の話から、両立のための日々の工夫、プロボノのこと、組織や地域でできる両立支援の取り組みに至るまで、「仕事と育児の両立」をめぐるお二人の対話を2回に分けてお送りします。<前編はこちら

IMG_5506
工藤啓さん
IMG_5475
尾本和哉さん

プロボノで見えた両立のロールモデルがないNPOの悩み

——尾本さんはどうしてプロボノプログラム(※注)に参加しようと思われたんですか?

尾本:実は「プロボノ」ってどんなものかまったく知らなかったんです。ただ、子どものこれからの人生に大きく影響するかもしれない幼少期に、親はどのように関わればいいのかを考えていて、「子どもの居場所」というものにはかなり関心を持っていました。

そんな時に放課後NPOアフタースクールが参加するプログラムの話を聞き、しかも今回のテーマはそこで働く人の育児と仕事の両立ということで興味がわきました。働き方改革のプロではありませんが、子どもの居場所を支えてくれている人たちをサポートできればと思ったんです。

(※注)2016年度よりGSが実施しているNPOへの「仕事と育児の両立支援」プログラム。プロボノ社員が3ヶ月間、NPOに伴走しながら課題の洗い出しやアクションプランの策定に関わる。詳細は本ブログのインタビュー記事、
「ゴールドマン・サックスが、NPOの「仕事と育児の両立支援」を行う理由。プロボノ社員による、NPO支援プログラムを立ち上げた担当者の思いとは。」
「3年間で団体の収入と常勤スタッフ数は4倍に。急成長期だからこそ、スタッフの「仕事と生活の両立」に向けた仕組みづくりが急務に(放課後NPOアフタースクール)」
を参照のこと。

尾本:設立間もない組織でスタッフも若いので、上司や先輩で「こういうふうに両立した」「こうやって業務を効率化した」というロールモデルがない。20~30代の女性スタッフに聞くと、多くが「出産後の働き方がまったくイメージできない」と言っていました。

NPOと接したのは今回が初めてでしたが、皆さん今の仕事にすごくやりがい、使命感を持っている。しかし歴史の浅い団体も少なくないでしょうし、中長期的なプラン、あるいはそこで働く人の中長期のキャリアプランがしっかり確立しているNPOは、そんなに多くないのかもしれません。

今回のプロボノを通して皆で考えたのは、子育てと両立しながら長く働き続けられる組織にしていくためには、まず、自分にもできそうだと思えるロールモデルを作ること、そして業務の効率化や割り振りの見直しなどによって、両立に欠かせない時短勤務のような働き方をみんなが当たり前と思えるようなカルチャーに変わることが重要だということです。

IMG_5523

流動性の低い日本社会では、プロボノはNPOにとってビジネスパーソンの知見を得られる貴重な機会

工藤:GSは違うと思いますが、一般的に企業のプロボノは自分たちが業務を終えた後の夜と土日を使うことが多くて、こちらはその間ずっと働いていることになります。職員の負担が大きいので、平日の日中の時間やオンラインを使えないプロボノはお断りさせていただくことが多いです。

ただ、最近は副業が解禁されてきていて、先日も最先端の企業に所属しているWebマーケティングの専門家などと矢継ぎ早にパートナー契約を結びました。プロボノはボランティアかどうかはあまり関係なくて、先方と相談をして一定の費用をお支払いさせていただくこともあります。高い専門性を持つ方を雇用させていただくことは簡単ではありませんし、業務のオンライン化も進めているため、特にお互いが直接顔を合わせなくてもよくなってますので、相手の都合の良い時間帯で進めていただける業務をお願いしています。

尾本:両立支援のプロボノは我々の金融の知識を役立てるというものではないので、自己満足ではないアウトプットをどう出すかはメンバーでかなり悩みました。

工藤:先ほどスタッフの中長期のキャリアプランという話が出ましたが、うちも10年以上のキャリアを持つ職員も増えてきており、組織の長期ビジョンを作ったり、職員のキャリアラダーを示し、人事評価と報酬を連動させる制度を設けたりしています。それができたのは一般営利企業から転職してきた人が「会社には普通こういうものがあるよ」と教えてくれたからです。

多くのNPOの運営は手探りで始まって、ある段階で運営から経営への脱却が必要になるんですが、自分たちだけでやろうとしてもなかなかうまくいかない。そんな時にビジネスパーソンに企業のいろいろなやり方や制度を教えてもらうんです。会社ではどうしているのか聞くだけでなく、可能な範囲で実際に使っている書類を見せてもらったりもします。日本は人材の流動性が低いので、NPOにとってはプロボノの人たちが情報の渡り鳥となって僕らの活動を支えてくださる。それがとてもありがたいです。

尾本:プロボノに参加した側もずいぶん勉強になりました。半分は自分も学びながら、自分の子どもとの向き合い方を考えたりしました。

工藤:プロボノに行くことで得られた知識やつながりは、万が一何かあった時に生活を守ってくれるものにもなるんじゃないでしょうか。NPOは課題解決型が多いので、子どもの非行とか生活の困窮とか、普通はあまり知らない、困った時に使える支援機関や制度の情報も持っていますしね。

IMG_5483

育児で困ったことを自分たちで事業にして解決する

工藤:僕らは仕事として制度を変えることにも取り組みますが、次男が保育園に落ちたことがあって、その時にやはり「保活はおかしい」と思ったんです。職員の子どもが行っている学童保育がつぶれたり、どんなに保護者が頑張ったところでどうにもならないおかしな状況がいっぱいということに、プライベートの生活を通して気付くんですね。

その時、気付いた人、辛かった人がまず声をあげ、できることは自分たちで事業やプロジェクトにしていく。そうやって子どもたちのための環境を作っていくことが重要だと思うんです。保育園に入れないことで皆困っているなら、自分たちで保育園を作る選択肢だってある。

そうはいっても、保育園の設立は難易度が高いので、本当にできることからでいいと思います。今、友人に相談をして双子の家庭のための子育てグッズの開発を企画しています。形になるかはわかりませんが、双子を授かって、普通の子育てグッズでは十分でないことがよくわかったので、これから先に双子を授かった方が少しでも子育てが楽になることに貢献できないかと思って。

尾本:育児での困ったといえば、送迎は何とかしたいですよね。数百円払うとその時間に迎えに行ける人をマッチングしてくれるとか、いろいろなサービスは増えているんですが、親としては知らない人にいきなり子どもを預けられない。だからといって自分で人を雇うとなると1時間単位でしか雇えず、時給2,000円とか4,000円ということも。会社の同僚に「何かいいアイディアないかなー」と言っているんですが、まさに「誰か何とかしてくれないかな」の人頼みですね。

工藤:小学生くらいになれば、保護者同士で話し合って、「今日はウチが連れてくわ。翌週よろしくね」とか「夏休みのイベント一緒に行きません? 何ならお子さんだけでも大丈夫ですよ」とかやったりしてますけどね。

尾本:ああ、イメージとしてはそういう感じですね。送迎のシェアみたいなものがもっとあれば。

0903c7a724e7fc4793431245cf0f6ccb_m

職場や地域でゆるやかにつながって子育ての負担を軽くする

工藤:送迎は毎日のことなので、そう簡単にはいかないかもしれませんが、まずはイベントなどの機会を使って、できることからやってみるのがいいんじゃないかと。例えばうちの団体は夏休みに小中学生をキャンプに連れて行きます。もし僕がキャンプに参加すると、妻が4人の子どもを見ないといけません。それであれば僕が自分の子どもたちも連れて行けばいいじゃないかと考えます。

会社でも研修や合宿とか、皆が子どもを連れてきて遊ばせておけたらいいなと思います。全部を会社でやることは難しくてもできることはあるのではないかと。育児と仕事を分けたい人もいるでしょうが、分けずに一緒にすることで皆が楽になれる部分はあると思います。小さい事例を積み重ねていって、それいいね、真似しようという人が出てくると、もう少し子育てしやすい状況になるのではと思います。

地域では、子どもを連れて公園に遊びに行く時、途中のお友達の家で「○○君いますか?」と声をかけて誘うことがあります。遊ぶなら子どもの人数は多い方がいいですし、親のほうは全員が付き添う必要はないので、その間に家事を済ませることができる。ただ、貸し借りになるのは嫌なので、ルール化したりはしていません。誰かのためというより、子どもたちが自分たちで遊んでくれるので僕が楽になるから、近所のお友達に声をかけます。

尾本:ゆるさが大事ですね。そうじゃないと義務になっちゃう。

工藤:そうそう。それくらいの軽やかな感じでつながるのがいいと思います。尾本さんのところのお子さんがもう少し大きくなったら、ぜひ一緒に公園に遊びに行きたいですね。男二人で子ども8人連れてるって、それだけで結構インパクトあるでしょう?

尾本:いいですね。すごく楽しみです。今日はどうもありがとうございました。

IMG_5535

(インタビュー・文/パブリックリソース財団 藤本貴子)