対談_前編

若者の「働く」と「働き続ける」を応援する認定NPO法人育て上げネットの理事長である工藤啓さんと、ゴールドマン・サックス(以下、GS)の証券部門で働く尾本和哉さんは、どちらも4人のお子さんの育児中。育休の話から、両立のための日々の工夫、プロボノのこと、組織や地域でできる両立支援の取り組みに至るまで、「仕事と育児の両立」をめぐるお二人の対話を2回に分けてお送りします。

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工藤啓さん
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尾本和哉さん

——最初に簡単な自己紹介をお願いします。

工藤:大学を中退してシアトルに留学し、帰国後に若者の就労支援団体を立ち上げました。2004年に法人化し、今は学校に行けなかったり、経済的に厳しい環境にある家庭の小中学生、さまざまな課題を抱えやすい子どもたちの多い高校、ご家族への支援と対象を広げています。1977年生まれで今41歳です。家族は、妻と小1の長男、次男は5歳、三男四男は双子で3歳です。

尾本:僕は新卒で証券会社に入社して以来ずっと営業です。2010年にGSに移り、今は企業やプロジェクトへの投融資案件を発掘する仕事をしています。1983年生まれの35歳、妻は今は専業主婦です。子どもは工藤さんのところと近くて一番上の長男が小1で7歳、その下が今年から幼稚園に通っている4歳の女の子です。三番目が2歳の女の子、それから今年もう1人男の子が生まれて、昨日でちょうど6か月になりました。あと犬が2匹いますので、マンションの部屋の中に生命が溢れている感じですね。

経営者と、ほとんど有給休暇を取ったことがない証券営業

——お二人とも育休を取得されていますよね?

工藤:経営者ということもあって、僕自身が休むことは念頭になかったんです。ですが友人であるフローレンスの駒崎君に「育休取るんでしょ?」「育休は経営者から取っていくものだ」と言われ続けて。長男の時に2か月、次男1か月半、三男四男で1か月休みを取りました。もちろん、団体としては一般的な制度は一通り備わっています。

よく「4人いると大変だね」と言われるんですが、実は1人目が一番大変で、それは大人だけの勝手気ままな生活が、「親の存在」が必要な子どもが中心の生活に一変するからです。2人目以降は変化そのものは大きくなくて、ただ負荷が増えていく。

尾本:僕は上の2人と下の2人で意識と関わり方がまったく変わりました。上2人の時は仕事が人生のすべてという感じで、1日でも休むとクライアントとの接触が減るという恐怖感に勝てず休めなかったんです。育休どころか有給休暇もほとんど取らず、取得が義務付けられている強制休暇以外は、年間の有給取得は2日程度という感じでした。休まないことが正しいことだと信じてました。家のことは専業主婦の妻に任せて、自分は仕事をして稼ぐという役割分担を自分で勝手に決めていたんですね。ところが3人目が生まれると、まさに負荷が増えて。

工藤:両手じゃ足りなくなるんですよね。

尾本:おっしゃる通りです。GSでも育休を取る男性社員が増えてきましたが、上司が育休で2週間不在になるのを結構他人事のように見てました。ですが子どもが3人になると確かに大変で、じゃあ自分も取ってみようかなと。それで休んだ初日にほんの少しだけ家事と育児を体験したんですが、1日終わった時には立てなくなるくらいに疲れ果ててしまって。ずっと仕事のほうが大変だと思っていましたが、子育てや家事は待ったなしで、しかもそれが24時間続く。それからは育休に限らず要所要所で休むようになりました。

最初はおそるおそるでしたが、休んでも仕事の効率にとくに影響もなくて、よく言われるように「自分が1週間いなくても仕事も世の中も何も変わらない」ことを実感しました。今は「お迎え行ってきます」と1時間抜けて、子どもをばーっとピックアップして家に送り届け、その後また会社に戻って仕事したりすることもあります。

仕事と育児を無理に切り分けない。職場に子どもがいたってかまわない

工藤:うちの団体は、別にルールを定めているわけではないんですが、職場に子どもを連れてきて仕事をしてもかまわないんです。去年子どもが保育園に入れなかったあるスタッフは、机に取り付けたベビーチェアに子どもを座らせて、その横でずっと仕事してました。僕も子どもたちを連れて行きますし、バギーやケージを使い、時には抱っこしながら今日のような対談も商談もやってました。

常に人がいる職場なので、泣いたら誰かがみる。来客も子どもを抱っこして「いいですね」「久しぶりに赤ちゃん触りました」といった反応です。同じ市内に住む職員にお迎えに行ってもらったり、お互いに子どもを預かったりもします。

尾本:それって組織として受け入れている、そういう環境があるということですよね。

工藤:制度も整えましたが、それを使うかどうかは職員自身の希望によりますし、こちらから押しつけることはありません。子連れで勤務する人も、休みを取る人もいます。育休の取得は本人の意思決定に委ねていますが、経営者である僕が何度も取得していることの影響は少なからずあるように思います。

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仕事を棚卸ししてみたら、職場に1日中いる必要がなくなった

工藤:長男が生まれて初めて1か月休む時は「大丈夫かな?」と心配はしました。自宅から職場まで自転車で行ける距離なので「何かあったら連絡して」と。ですが何も連絡がない。だんだん不安になってきて、こちらから電話して「何かないの?」と聞いても、「別に大丈夫ですよ」と言われる。

「残った人が困るから、事前に自分の仕事をすべて棚卸しして他の人に振り分けておいたほうがいい」と駒崎君からの助言もあって、「この意思決定は誰々さんがやってください」、「これは僕がやらなくても大丈夫ですか?」と、自分のタスクの振り分けをしました。何かあればすぐに対応する準備はしていましたが、特に連絡はなかったです。復帰後は元の仕事の半分くらいを引き受けましたが、もう半分は他の人に渡してしまったので、その空いた時間で別の新しいことを始めたりしました。

尾本:一度棚卸しをして仕事の効率化ができたんですね。

工藤:そうですね。双子が生まれてからは職場の自分の机をなくしました。今は会議もSkypeを使ったり、子どもに何かあっても柔軟に対応できるようにしています。でも仕事のパフォーマンスが落ちたという印象はありません。

尾本:今はどこの会社もそうだと思うんですけど、僕も最近は「この時間は外に出ているのでコールインさせてください」で対応させてもらっています。1時間みっちり話さなければならないようなミーティングはそうないので、15分間だけ携帯につないでもらう。子どもがそばにいても「うるさいかもしれませんがお許しください」とお伝えすれば、そんなに気にする人もいません。もちろんお客様とface to faceで真剣に交渉する時にはきちんと時間を確保します。

それ以外では、仕事でも時間の融通は利くものです。しかし子どものことは自分がその時にその場で対応しないと回らない。仕事と子育ての両方で優先順位を付けることで、今必要なこととそうでないことの整理はできているように思います。

工藤:あと飲み会にはほとんど行かなくなりましたね。夕方の6時から夜9時にかけてはお迎えから寝かせ付けまでの子育てコアタイムですし、今は自宅で好きなものを用意して参加するSkype飲み会もよくやります。

尾本:夜の付合いは社内外ともに大事なもので断れないと思っていましたが、僕も次男が生まれてからは意識的に減らしました。営業成績にも影響なかったように思います。

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その組織にあうやり方で「週5、通勤、フルタイム」以外でも働ける環境を

尾本:でも本当に両立ができているかというと、会社の制度に支えてもらって何とか回しているというのが実態です。例えば保育園は会社の施設内にあるので、4人とも「保活」はやったことがないんです。去年出産した僕の姉が今必死に保活していると聞いたりすると、うちはずいぶん会社の制度に助けられているなと。

会社の福利厚生なんて以前はほとんど興味がありませんでした。サラリーマンですから、子育てや病気といった事情があっても、会社という枠組みの中で自分に求められた仕事をこなしていくのは当然のことです。でも、どうしてもその枠組みのままでは働き続けられない時もあるかもしれない。枠組みをちょっとだけ緩める、サポートする仕組みが会社にあれば、誰もが大変なことと仕事を両立させることができて、例えば子育てを理由に優秀な人が組織を離れるということも防げるんだろうなと。組織にはそういう仕組みが大事なんだと、実際自分が助けられて思うようになりました。

工藤:GSは確かに大企業ですが、大企業にしかできないことは実はそんなに多くないと僕は思います。NPOであってもできることはいろいろあって、現に子どもが保育園に入れなかったので自分で保育園を作った友人もいます。それに圧倒的に多くの人が大企業でもNPOでもない中小企業で働いているなかで、すべての会社が一律にあらゆる支援メニューを揃えることは現実的ではないと思います。

ただ、企業かNPOかに限らず規模が小さいと1人抜けたときの負担がどうしても重くなる。ですが少ないなら少ないなりに、例えば全員が1カ所に集まって働くことを前提にしないで、オンラインでできる業務はとりまとめて在宅で、ミーティングはコールで、といった工夫をすればいい。

尾本:そうですね。1日中職場に張り付いていなくてもいいというのが当たり前になれば、誰かが途中で抜けても、本人の申し訳なさとか周囲の抵抗感も減りますよね。

工藤:先日、時短勤務やオンライン勤務も可能という求人を出したら、驚くほどたくさんの優秀な人たちが応募してきたんです。多くは立川近辺在住の、もともとはフルタイムで働いていた女性で、出産を機に自分の生活をいったん子ども側にシフトしている方です。今、中小企業は人材確保が難しくなっていますが、それは週5のフルタイムが採用できないだけなんですね。今回応募してきた皆さんが探していたのは、今の自分が働ける「子どもの送迎があるから地元で週2か3、時短やオンラインもOK」という条件の仕事です。細分化された業務に応じて勤務形態が選べるといった、結果として育児がしやすい職場にはいい人材が来る。実際にやってみてそれが分かりました。

——<後編>に続く。

(インタビュー・文/パブリックリソース財団 藤本貴子)