「仕事と育児の両立」に取り組むNPOのインタビュー。

第6回目は、「子どもの貧困」解決をミッションとし、困難を抱える子どもへの質の高い教育支援を行っているNPO法人Learning for Allです。代表理事の李炯植さん、経営管理チームのディレクター今村順一さん、そして経営管理チームのマネージャーで、団体で初めて産育休を取得した栗本恵理さんにお話を伺いました。

李
李炯植さん
今村
今村順一さん
栗本
栗本恵理さん
NPO 7団体の「仕事と子育ての両立」事例についてヒアリングしてまとめた「NPO ではたらく×そだてる NPO の“仕事と子育ての両立”事例集」掲載団体のインタビューを、順次、本サイトでも掲載していきます。

<NPO事例インタビュー>
第1回: かものはしプロジェクト
第2回: トイボックス
第3回: ACE
第4回: マドレボニータ
第5回: みやぎ発達障害サポートネット

団体設立2年目、初めての産育休取得・復帰事例が生まれる

:私たちは2010年6月に、認定NPO法人Teach For Japan内の一事業として学習支援を開始したところから活動をスタートさせています。その後、Teach For Japanから独立する形で2015年4月に、NPO法人 Learning for All を設立しました。

栗本:私は設立2年目、2016年の6月にLearning for Allに入職しました。その年の11月から翌年の17年4月にかけて産育休を取得し、その後仕事に復帰しました。団体としては初めての産育休取得と復帰の事例になりました。

私たちは組織も若いですが、スタッフも若いスタッフが多いんです。これから出産や育児に直面する人たちが少なくないことから、私の事例をきっかけに「仕事と育児の両立」のための制度づくりに着手することにしました。

グラフ

スタッフの「望む働き方」が多様化する中で、組織の役割を見直す

:団体の設立当初から就業規則等、最低限の制度は整えてあったのですが、職員数の増加に伴ってだんだん実情と合わなくなってきた面もあり、見直しの必要性を感じていました。

それに、まだ設立間もないベンチャー、発展途上の団体であり、団体や事業の「成長の勢い」と、スタッフ個人の「働きやすさ」をどう両立していくかという課題もありました。

栗本:ベンチャー組織で「バリバリ働きたい」というスタッフがいる一方、「仕事と家族や生活を両立していきたい」というスタッフもいる。スタッフ数が増えるに従い、「望む働き方」が多様化していきました。

組織としては、そうしたスタッフの多様なあり方を受け入れたいと考えていましたが、どうすれば組織が成長する勢いと働きやすさのバランスが取れるのか模索していたのです。それは、「仕事と育児の両立」にとどまらず、全職員の「仕事と生活の両立」に関わることでした。

学習支援現場

:事業の成長スピードは止めることなく、スタッフの「仕事と生活の両立」も実現できるように、団体として生産性向上を前提とした両立ビジョンが必要でした。

さらに、「学習支援事業」「子どもの家事業」といった事業は、それぞれ中心となる拠点があるのですが、働きやすさや意思疎通の面で、本部と各拠点の間に課題も生まれつつある状況でした。急成長した過程において、団体のビジョンやありたい姿など、事業の幹となるような価値観を、改めて全員が共有していく必要があると感じていました。

そんな中、2017年9月よりゴールドマン・サックス(以下、GS)の「子育てと仕事の両立」支援プログラムに参加する機会を得て、GS社員の方々に、私どもの組織作りに伴走していただくことになりました。

実施概要

「私たちはどういう組織でありたいか」という問い

——どのようなことに取り組まれたのでしょうか?

栗本:まずは、「問題の可視化」です。GS社員の方がスタッフを対象にアンケートを実施して、「仕事と生活の両立」という観点だけではなく、組織として何が問題なのかを網羅的に可視化してくださいました。

その結果、「育児休業等の長期休暇を自身や同僚が取ること」に約半数のスタッフが不安を覚えていること、現在の休暇制度への認知度が低く、有給休暇も約半数がほとんど取っておらず、3割が取ったことがないことがわかりました。また、作成後間もない組織ビジョンについては、まだまだ全職員と共有することができていないということもわかりました。

こうした実情をふまえ、打ち手を考えていきました。

:打ち手の一つとして取り組んだのが、「組織ビジョンの刷新」です。

私たちは「教育格差の解消」という事業ビジョンを掲げており、組織ビジョンも作成はしていましたが、「組織として従業員にこうあってほしい」という軸で見た時に、物足りない内容のものになっていました。

そのことにより、スタッフが仕事と生活や育児を両立する姿を描く際に、あるべき姿を描きづらいという事実が、アンケートによって改めて浮き彫りになりました。

そこで「私たちはどういう組織でありたいか」をしっかり言葉にして、組織内だけではなく外部に対しても、スタンスを明確に打ち出す必要があると気づき、組織ビジョンを刷新しました(下記参照)。

図

:何よりもまず、「従業員を大切にしたい」というのが私の思いです。私たちは子どもたちのサポートをする仕事をしていますが、まずは働く側の心身が安定していないと、その先にいる子どもたちに質の高いサポートは届けられません。

安心して働ける組織を作ることは団体の責務と考えているので、スタッフと対話を重ねながらこうしたステートメントを打ち出せたことは、結果だけでなくそのプロセスも含めて、とても意味のあるものでした。

本部だけでなく拠点にもこうしたステートメントの内容が浸透するように、今ミーティングなどを通して広めているところです。

研修風景

今後に向けた取り組み。「全従業員が幸福な組織」を目指して

今村:仕事と生活を両立させる取り組みとしてこれから着手するものに、休暇取得の促進、リモートワーク制度の導入、人事評価制度の見直しなどがあります。

——それぞれの取り組みを行うことにした背景や具体的な指針について教えてください。

今村:休暇取得の促進については、アンケートにより、全スタッフの3割が有給休暇を取得したことがないとわかったことが背景にあります。組織の持続可能性を担保し、スタッフの精神的・身体的な健康を保つためにも、休暇取得の推進を行っていきます。

リモートワークは、今も個別に上司の判断のもとで行なっていますが、特に制度としてあるわけではありません。産育休からの段階的な仕事復帰の手段としてだけでなく、全スタッフが平等に使える機会となるように、制度としての導入を検討しています。

人事評価の見直しは、アンケートで、人事評価手法に対する不安や不透明感があるという声が上がったことから検討を始めました。経営層や常に全力で働くスタッフの姿がベンチマークになりがちなので、そうではない働き方とゴールの設定、生産性意識の改革や積極的な創意工夫を促すためにも、評価基準を明確にしていきたいと考えています。2018年秋の時点では、職員からのヒアリングによる現状の課題抽出を終え、外部のアドバイザーに加わってもらって制度の見直しを進めているところです。

:スタッフが仕事と生活の両立に対して何を課題と考えているかが網羅的に見えてきたことで、経営層が組織の問題をより俯瞰的に捉えられるようになったと思います。

これからもしばらくは事業の拡大、スタッフの増員が続くことが見込まれますので、また組織の構造を変える必要が出てくるかもしれません。その際にも、今回新しくしたビジョンステートメントなどは、組織として何を大切にしたいかを振り返り、立ち返るものとして活用できるものです。改めて団体のビジョンが言語化されたことで、外部に対しても私たちが大切にしていることをわかりやすく発信できるようになったと考えています。

私たちはこれからも、仕事と育児の両立のみにとどまらず、「全従業員が幸福な組織」を目指して、活動を進めていこうと思います。

集合写真

(インタビュー・文  / パブリックリソース財団 瀬名波雅子)


<参考情報>

図2

【団体情報】 NPO法人Learning for All
「子どもの貧困」解決をミッションとし、困難を抱える子どもへの質の高い教育支援を行っているNPO法人
設立年 : 2014年(2015年 法人格取得)
体 制 : 常勤スタッフ20名、業務委託・インターン40名
住 所 : 〒160-0022 東京都新宿区新宿5丁目1−1 ローヤルマンションビル404
U R L :http://learningforall.or.jp