ゴールドマン・サックス(以下、GS)では、2016年度よりNPOへの「仕事と育児の両立支援」プログラムを実施しています。 

これはGSのプロボノ社員が3ヶ月間、NPOに伴走しながら課題の洗い出しやアクションプランの策定に関わるというプログラムで、「NPOの“仕事と子育ての両立”事例集」本サイトに掲載されている4つのNPOが参加しています。

プログラムの立ち上げの背景や思い、社員やNPOそれぞれの反応と今後について、GSコーポレート・エンゲージメント所属(社会貢献担当)の麻崎久美子さんに伺いました。

麻崎さんprofile写真
麻崎久美子さん

NPOにこそ「スタッフの『働き方』への支援」が必要、という気づき

——麻崎さんがNPOの「仕事と育児の両立支援」プログラムを立ち上げた背景についてお聞かせください。

社会貢献プログラムの担当としてNPOで働く方たちと仕事をする中で、出産や子育てというライフステージで仕事から離れざるを得ない女性が想像以上に多いことに気づきました。これからも活躍するはずの方たちが出産や子育てを理由に辞めてしまうのはとてももったいないと感じていたんです。

また、NPOが展開している事業そのものに対するプロボノ支援も非常に大切ではありますが、NPOを起業した経営者やスタッフの「働き方」をより良くするための支援が足りないとも思っていました。

GSがグローバルで行う社会貢献活動の一つに新興国の女性起業家を支援するプログラムがあるのですが、日本国内の女性起業家に対しても何かできることはないかと思ったのがきっかけです。

2015年に、女性が立ち上げたNPOに対しGS社員によるプロボノを始めたのですが、「働き方改革」や「女性活躍」を推進するうえで、NPOで働く女性経営者やスタッフの働き方を変えるためのサポートが不可欠だと気づき、2016年からはNPOの仕事と育児の両立支援に特化するようになりました(*注1)。

(*注1)参加団体は下記の通り。
2016年度:認定NPO法人 かものはしプロジェクト、NPO法人 トイボックス
2017年度:NPO法人 Learning for All 、NPO法人 放課後NPOアフタースクール

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多忙な中、プロボノとして参加に名乗りを上げた子育て中のGS社員たち

——「仕事と育児の両立支援」プログラムは、GSのプロボノ社員の方たちが、NPOでの仕事と育児の両立に向けたビジョンづくりとアクションプラン構築に3ヶ月間みっちりと伴走するというものですが、社内での反応はどういったものだったのでしょうか?

参加する社員にとっては本業以外に時間を割かなければいけないので負担も少なくありませんが、驚いたことにワーキングマザーたちからの反響がすごく多かったんです。ただでさえ仕事と育児で忙しいはずの彼女たちが、時間がない中で関心を示してくれることに当事者意識や問題意識の高さを感じました。

参加に名乗りを上げてくれた男性社員も子育て中という人が多かったですし、いろいろな部署から問い合わせや参加申し込みがあって嬉しく思いました。

もともとこのプログラムの他に、弊社ではCommunity TeamWorks(*注2)という社会貢献プログラムがあり、社長はじめ、管理職もボランティア活動に参加しています。そうした土壌もあり、ボランティア活動は、「やって当たり前」という精神が社員に根付いていたことも、社員からの前向きな反応の背景にあったと思います。

(*注2)Community TeamWorks(CTW)
GSの代表的なボランティア活動プログラム。社員がボランティア有給休暇を使って参加する社員参加型の地域貢献活動で、1997年より毎年行っている。活動内容は、障がい者とのスポーツを通じた交流、趣味や特技を生かした子どもたちとの交流企画、困難を抱える女性達と社員自身の経験を共有するなど多岐にわたり、社員は興味のあるボランティア活動を選択して参加することができる。職場で培ったスキルや能力を発揮できる、1日完結型のプロボノ・プロジェクトも実施している。

——実施してみて、NPOからの反応はいかがでしたか?

プロボノ期間中はNPO側のコミットも大きいので団体によっては負担もあったかなと思いますが、「仕事と育児の両立支援にとどまらないサポートが提供された」と高評価をいただくことができました。

このプログラムではGSプロボノ社員がまずNPOスタッフの方たちへヒアリングを行って、組織にもともとあった働き方の課題や安心して働き続けていく上でのボトルネックを洗い出します。その上で、課題の洗い出しやアクションプランの設定に3ヶ月間伴走をするので、「仕事と育児の両立」にとどまらない組織的な課題が見えてくるのだと思います。

またNPOの多くは、少ない人材の中で精一杯に事業を行なっていますから、経営者やスタッフが産育休を取るときには自分が離れることへの不安も大きく、「復帰後また同じ仕事ができるのか?」「仲間たちからのサポートはあるか?」「どうしたら仕事と子育てを両立できるか?」などの心配は尽きないようでした。そこに第三者的な立場でプロボノが入ることにより、スムーズに復帰できた、という声もありました。

2017年度プログラム報告会
2017年度プログラム報告会

自分が親になり、改めて思うこと

——麻崎さんは2018年に出産され、まさに「仕事と育児の両立」の当事者となったわけですが、心境の変化などはありましたか?

はい。出産後の今になって、できたばかりのプログラムへ手を挙げ参加してくれた社員の思いがわかるようになりました。

親の働き方を支援することは、子どもたちをサポートすることにつながるんですよね。

たとえ自分の子どもだけが幸せであっても、社会全体で子育てをしていかないといい社会はつくれないし、結果として自分の子どもも幸せになれない。あらためてそう実感するようになりました。

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——今秋に産育休から復帰されるそうですが、復帰後はどのようなことに取り組まれるご予定ですか?

弊社では「こどもの貧困」対策に非常に力を入れていますのでその継続に加え、まだ具体的には決まっていないものの、社員の経験を活かせるような社会貢献プログラムを作りたいと思っています。

「仕事と育児の両立支援」プログラムを通じて、たとえ参加社員にとって負担があったとしても、当事者意識が持て、自らの経験とマッチするものであれば社員の満足度は高くなることがわかりました。

GSは会社として、社員が幸せに働き続けられるよう試行錯誤しながら福利厚生を手厚くしてきました。会社が社員に与えてきたものを、今度は社員が社会に向けて還元し、より良い社会をつくっていくパワーに変えていければ、と考えています。

——NPO経営者やスタッフのこれからの働き方については、どのようなことをお考えでしょうか?

NPOは小回りを利かせた機動力が優れているところが多いですよね。今回作成した「NPOの“仕事と子育ての両立”事例集」を見ても、そうした事例が多くあることがわかります。

育児中の人だけではなく、育児がひと段落した人たちや、一回退職したけれど戻りたいという人たち、さまざまな事情があって柔軟に働きたいという人たちを受け入れる職場作りができれば、働く側と組織がサステイナブルな関係になり、社会課題の解決に向けた事業がむりなく継続できるのかな、と思います。

GSでも引き続き、NPOの「仕事と育児の両立」に向けてできる限りのサポートをしていきたいと考えています。

(インタビュー・文/パブリックリソース財団 瀬名波雅子)