当サイトでは、NPOで働く人の仕事と育児の両立支援の事例として、団体の代表やスタッフの産育休の取得をきっかけに両立のための環境整備を進めてきたNPOのインタビューを掲載しています。

その中で共通する取り組みの一つに「就業規則」の作成や整備があります。

公益財団法人東京しごと財団が2015年に東京都に主たる事務所を置いているNPOを対象に実施した調査では、就業規則がある団体は回答のあった584団体のうち43.0%でした。

前年度の総支出額が5,000万円以上の団体(84団体)のうち97.6%に就業規則がある一方、300万円未満(188団体)では9.6%です。産前・産後休暇・育児休暇についての定めがある団体は回答団体の18.7%でした。

今回は、就業規則の役割や必ず記載すべき内容、まだ就業規則がない場合どのような手順で作成すればよいかについて簡単にご紹介します。さらに、仕事と育児の両立を進める上でなぜ「就業規則」が重要になるのか、これまで取り上げた団体のインタビューもふまえ、見ていくことにします。


就業規則とは

就業規則は、労働者の労働時間や賃金などの労働条件や服務上の規律などを定めたもので、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないと労働基準法(以下、労基法)第89条で義務付けられています。

「常時10人以上」というのは、直接雇用されている正規社員だけでなくパートタイムやアルバイトもすべて含めての人数です。なお、派遣労働者などは含まれません。

就業規則は、そこで働くすべての人に同一の規則が適用されるのが原則です。もしパートタイムスタッフなどに正規社員とは異なる労働条件を定める場合は、正規社員の就業規則に特別な規定を設けるか、パートタイムスタッフの就業規則を別に作成する必要があります(例「パートタイム労働者就業規則」)。

10人未満の場合、労働基準法上は就業規則を作成しなくても差し支えないことになります。NPOのインタビューで「団体設立当初はスタッフも少なかったので就業規則はなかった」と述べている団体があるのはこのためです。しかし、安心して働ける職場づくりという点からは、小規模な団体であっても、やはり作成しておくことが望ましいとされています。

就業規則に記載すべきこと

就業規則には必ず記載しなければならない事項があり、それは労基法第89条に明記されています。
以下の3つの項目は、どのような場合でも必ず就業規則に記載しなければならない絶対的必要記載事項です。

1 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
2 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
3 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

その他、ある事項について制度を設けた場合には、必ず記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)もあります。

*参考リンク:就業規則に記載する事項 2 就業規則の効力 – 厚生労働省

上記以外でも、内容が法令や労働協約(労働組合と使用者(団体)との間で締結された書面協定)に違反しないものであれば、任意に記載することができます(任意記載事項)。

逆にいえば、就業規則は法令やその事業場に適用される労働協約に反してはならないとされています(労基法第92条)。

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就業規則の作成手順

では、これから就業規則を整備する場合は、どのように作成を進めればよいのでしょう。

入手しやすいモデル規則はあるが・・・

インターネットで検索すれば、厚生労働省のページ(「モデル就業規則について」)をはじめたくさんの「モデル就業規則」を見ることができます。

しかし、マドレボニータのインタビューにもある通り、安易にモデル規則を流用するだけでは、その団体の勤務形態や労働時間、スタッフの構成、賃金などの実態に合う就業規則にはなりません。

必要な場合には、日頃からお付き合いのある社会保険労務士や弁護士などのアドバイスを受ける、あるいはプロボノなどの機会を活用するといったやり方で、専門家の力を借りることも検討したほうがよいでしょう。

また、都道府県などが労働法や労働問題などについてのセミナーを無料で開催しているほか(東京都TOKYOはたらくネット「労働セミナー」など)、社会保険労務士会/事務所や商工会議所、コンサルティング会社などによる有料無料の講座も数多く開催されています。どこから手を付けていいか分からないということであれば、こうしたセミナーの受講も手がかりとなるのではないでしょうか。

就業規則の作成手順

就業規則は次のような手順を踏んで作成します。このうち2,4,5は労基法で定められている事項です。

1 案を作成する
まず現在の労働条件、退職金・賞与などに関すること、服務規律などを把握し、整理します。その中から、就業規則の絶対的必要記載事などを確認した上で、就業規則に記載すべき事項を選び出します。労働基準法などで定める労働条件や一般的な水準等について情報を収集し、法定の最低限の基準を上回るようにして、作成します。

2 労働者代表から意見を聴取する
就業規則を作成する時、あるいは変更する時には、事業主は、労働者側から意見を聴かなければなりません(労基法第90条第1項)。

3 労働者代表からの意見を踏まえて検討する
事業主には労働者側から出た意見を尊重して、再度内容を検討し、双方で受け入れられる規則にすることが求められます。

4 労働基準監督署へ届け出る
就業規則は、労働者の「意見書」(意見及び労働者の代表者の署名又は記名押印のある書面)を添えて、労働基準監督署長へ届け出なければなりません(労基法第89 条、第90 条)。なお、意見書は、就業規則の内容に反対する意見であっても違法ではありません。

5 労働者へ周知する
就業規則が完成したら、事業主は、労働者一人ひとりにその内容を周知しなければなりません(労基法第106 条第1項)。事業場の見やすい場所への掲示、いつでも見られるように備え付けておく、パソコン等によって内容を確認できるようにしておくといったいずれかの方法をとらなければなりません。

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仕事と育児の両立と就業規則

ここまで一般的な就業規則の内容やその作成の手順についてご紹介してきましたが、次に仕事と育児の両立に就業規則がどのように関わっているか見ていくことにしましょう。

当サイトの記事「仕事と子育ての両立を支援する法制度-妊娠から出産、育児、職場復帰まで」でも取り上げたように、産前・産後休業、育児休業をはじめ、妊娠中または出産後の女性労働者の働き方や子育てと仕事を両立させるためのさまざまな決まりが、労基法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に定められています。

実は産前・産後休業や育児休業は法律に定められた労働者の権利なので、就業規則に規定がなくても取得は可能です。

しかし、育児休業や介護休業を付与する要件や取得の手続、休業期間、休業期間中の賃金の支払いなどについて何の定めもなければ、働く人は安心して休むことはできないでしょう。

事業所が制度を導入し、就業規則に育児・介護休業規定を定めるには、多くのことを決める必要があります。育児休業や介護休業は、就業規則に必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項である「休暇」に該当しますし、休業期間中に賃金を支払うのか無給なのかといった「賃金」についても同様です。

また、仕事と育児を両立する上では欠かすことのできない、所定外労働の免除、時間外労働や深夜業の制限、短時間勤務なども、例えば給与や賞与の算定基準や手続きの方法など、就業規則で定めておく必要があります。

実際にどのように就業規則に記載するかは、厚生労働省の「【平成29年10月1日施行対応】育児・介護休業等に関する規則の規定例」などをご参照ください。

なお、前述したように常時10人以上が雇用されている事業所において就業規則を作成した場合、労働基準監督署への届出が義務付けられていますが、育児・介護休業に関する規定を新たに作成したり、あるいは内容を変更した場合にも届け出なければなりません。

育児休業中の在園児の扱いと就業規則

このように仕事と育児を両立しやすい環境を作り出すために就業規則の整備は欠かせません。さらに、マドレボニータのインタビューにあるように、すでに保育園に通っている子どもがいる人が、次の子どもを出産し育児休業を取得する場合、上の子どもが在園し続けられるかどうかに就業規則の有無が影響するという切実なケースもあるようです。

各自治体によって保育園の申請基準やルールはまちまちですので、必要な場合は早めに窓口へ問い合わせされることをお勧めします。

団体で働くすべての人に「育児と仕事を両立できる」「どんな事情があっても長く働き続けられる」という安心を提供するためにも、作成・届出の義務のある10人以上か未満かという団体規模に関わらず、少しでも早く就業規則の作成や必要な見直しに取りかかることが望ましいと考えます。

(文・パブリックリソース財団 藤本貴子)

【参考】

厚生労働省東京労働局
「就業規則作成の手引き」
「就業規則の作成例」

東京都TOKYOはたらくネット
「就業規則作成の手引き」
「就業規則点検・整備の手引き(平成27年版)」
「使用者のための労働法」

厚生労働省
「【平成29年10月1日施行対応】育児・介護休業等に関する規則の規定例」

公益財団法人東京しごと財団
「第3回NPO法人と人材のマッチングに関する調査(平成27年3月)