「仕事と育児の両立」に取り組むNPOのインタビュー。

4回目は、「産後」に特化したヘルスケアプログラムを開発・提供し、母となった女性が心身ともに健やかに人生を送れるようサポートしている認定NPO法人マドレボニータです。理事長の吉岡マコさんと、2014年から15年にかけて産育休を取得された事務局次長・太田智子さんにお話を伺いました。

プロフィール写真_吉岡マコ
吉岡マコさん
プロフィール写真_太田智子-1
太田智子さん
NPO 7団体の「仕事と子育ての両立」事例についてヒアリングしてまとめた「NPO ではたらく×そだてる NPO の“仕事と子育ての両立”事例集」掲載団体のインタビューを、順次、本サイトでも掲載していきます。
<NPO事例インタビュー>
第1回: かものはしプロジェクト
第2回: トイボックス
第3回: ACE

団体設立当初からリモートワークを実践。現事務局長はアメリカ在住


——マドレボニータでは、固定のオフィスを持たずに全員がリモート勤務されているそうですね。

吉岡:はい。マドレボニータには法人運営に関わるスタッフと、マドレボニータが養成・認定した産前・産後ケアのインストラクターがいます。インストラクターは養成コースを受講後、実技・筆記試験に合格して団体の認定を受け、個人事業主として団体と契約しています。

初めは事務所を借りて固定費を支払う余裕もなかったことや、通勤時間がもったいない、ということもあり、1998年の設立当初からリモートワークを基本として事務局運営の設計を行ってきました。

事業を始めて数年経った頃、運営スタッフの一人がパートナーの転勤にともなって東京から地方に引っ越すことになりました。本人は退職せざるを得ないと思っていたのですが、私たちはそれまでの働き方を進化させれば勤務継続できるのではと考え、本格的に完全リモートワークの実現に乗り出しました。

今では全国各地にマドレボニータのスタッフやインストラクターがいて、なんと事務局長はアメリカ在住です。

——運営スタッフの方は全員子どもをもつ女性と伺いました。制度面ではどのように仕事と育児の両立をサポートされてきたのでしょうか。

吉岡:私たちは1998年から活動を始め2008年に法人化しましたが、就業規則の届出が必須となる「常時10人以上の従業員」に職員数が達していなかったので、規則を定めていなかったんです。

出産の前後や育児のために休暇を取得したスタッフもいましたが、就業規則がなく、雇用保険も所定労働時間上対象外だったため、ただのお休み期間になっていました。

もともとリモートワークが基本でしたし現場の運用は柔軟に進めていましたが、制度としては必要に駆られて整えたという側面が強いです。

太田:私は2011年からマドレボニータで働き始め、14年に第二子出産のために産育休を取得したのですが、その時期に間に合うように就業規則の作成を進めました。

マドレ収益推移


太田
:実際には就業規則がなくても産育休を取得することは可能です。しかし、就業規則に定められた育休かどうかが保育園に預けられるか否かに関わってくる場合があります。市区町村によって違いがありますが、生まれた子を保育園に預けられるか、あるいは上の子の保育園入所が継続できるかどうかの要件になっていることがあるんです。

私の住む市がまさにそうで、就業規則に規定された育休を取っていると証明することが、すでに保育園に通っている上の子を継続して預けるために必要で、さらに生まれてくる下の子の入所申請時の点数にも影響がありました。ですから、この機会にきちんと就業規則を整備することにしたのです。

それに、就業規則で産育休について定めておくことは、これから産育休を取る可能性のあるスタッフにとっても、働き続けていく上での不安解消にもつながると思いました。規則で定められた休みというのは安心感がありますしね。

——就業規則の作成は大変でしたか?

太田:そうですね。私たちの団体はスタッフの勤務時間や労働条件が異なるため、ネットですぐに探せるような既存のテンプレートはあまり役に立ちませんでした(笑)。働き方の自由度を担保した就業規則を作る必要があったため、活動を応援くださっている弁護士さんにプロボノとしてかなりの手助けをいただいて、作成しました。

私の後に続いてこれまでに3人が産育休を取得しました。簡単ではありませんでしたが、就業規則を作ってよかったとしみじみ思います。

リモートワーク=片手間にできる仕事ではない。仕事に集中できる環境を整えることが必須

——リモートワークは、一般に子育てと相性がいいと言われますが、実際はいかがでしょうか?

吉岡:フルタイム勤務やオフィスへの毎日の出勤は難しい、子どもの急な病気もある、各自いろいろな事情がありますが、場所や時間の制約を受けにくい働き方であれば、各自の事情と折り合いをつけながら、能力をフルに発揮できます。

ただ、誤解されがちなのですが、マドレボニータでは、在宅の場合でも子どもを見ながらの勤務というのは原則認めていません。子どもが元気ならどこかに預ける、病気の子どもの看病をする場合は仕事を休むのが基本です。

自宅で勤務できるとはいえ仕事ですので、そのための環境は整えてもらうようにしています。パートナーの理解や協力はあるか、年に一度の宿泊を含む合宿に単身で参加できるかということも、採用の時点で確認します。

寄付者情報の管理や採用もオンラインで。同じ空間にいる時間が少ないからこそ、スタッフ間のコミュニケーションは密

——スタッフ間のコミュニケーションはどうしていらっしゃいますか?

太田:組織運営や日々の進捗報告、グループミーティングなど、すべてオンラインで行っています。ひとくちにオンラインといってもいろいろなツールがありますので、目的に応じてツールを使い分けています。

現在はGoogleを中心に、クラウド型ビジネスチャットツールのChat Work、企業用SNSのWorkplace(facebook社)を使用しています。 オンライン会議は、昨今はZoomを使用することが多いです。

事務局MTG写真_madrebonita

吉岡物理的に同じ空間にいる時間が少ないため、業務とプライベートの両面でのコミュニケーションを密接にはかることを意識しています。対面で会う機会が少ないからこそ、しっかりコミュニケーションを取ろうというモチベーションにつながっている部分もあると思います。全員がリモートワークなので、情報の格差やマインドの格差が生まれにくいというのは、利点の一つです。

太田:チャットツールのChat Workでは、業務に関するグループの他に、日常のことや家族のことを気軽に話し合う「給湯室」というグループを設けているんですよ。オフィスの給湯室でいろいろおしゃべりしますよね、そのオンラインバージョンです(笑)。

また、業務に関する定期ミーティング以外にも、隔月で「SSS」と呼ぶミーティングを設けています 。(事務局)シスターズ・S・サロンの頭文字で、会の目的は「より業務を効果的におこなうために、相手のことと自分のことをより深く知る」ことです。真ん中のSは、share、sincere、serene、secret、sacred、significant、さらけ出す、などいくつかの意味が含まれています。

ここではメンバーの人生やキャリアについての、これまでの歴史やこれからのビジョン、団体への思いなどを共有しています。

それから、スタッフはそれぞれ個人の「ビジョンシート」というものを1年ごとに作成しています。仕事以外のことも、できる範囲でシートに盛り込むようにしており、それを「SSS」で発表したり、質問や感想を共有したりして、コミュニケーションに役立てています。

マドレビジョンシート

対面で会う機会としては、年に一度、合宿を開催しています。

madrebonita_合宿


——寄付者情報の管理や、スタッフの労働管理も全てオンラインで行われているんでしょうか?

太田:はい。会員や寄付者、教室参加者は独自に開発したデータベースとシステムで管理しています。スタッフの労働時間管理はGoogle Driveのスプレッドシートで作成した出勤簿で行っています。

——スタッフの採用面接も、オンラインでされると聞きました。

吉岡:法人立ち上げ当初からしばらくは、産後ケア教室の参加者やボランティアで関わってくれていた人の中から、この人は!と思う方に「スタッフになりませんか?」と直接お声がけをしていました。最近は公募もしていて、面接は基本オンラインで行なっています。

太田リモートワークを基本とする働き方には、向き不向きがあります。未知のことを楽しめたり、自律的に働ける方でないと難しいかなと。

オンライン面接を何度か行い、対話を重ねることで、本人が過剰なストレスを感じずに業務に取り組めるかどうかをお互いに見極めるようにしています。

産後ケアをしっかり行うことは、本人だけでなく、家族や所属する組織にとってもメリットの大きいこと


——育休中や復帰を控えたスタッフに対しては、どのようなサポートをなさっていますか?

吉岡:産後ケアの必要性を啓発している自分たちだからこそ、「適切な産後の過ごし方・支え方」を自ら実践するよう心がけています。

これは公式なものではなく、自発的に行なっているものですが、スタッフが出産する場合、事前にそのパートナーとも密に連絡をとり、近隣に住む理事やスタッフ、インストラクターなどがお祝いもかねて訪問し、産褥期に必要なサポートを行ったりしています。

誰が何日に訪問するかなどの日程の調整ももちろんオンラインで行います。産褥婦は液晶画面を見ない方がよいので、産後の訪問の調整のやりとりは、全てパートナーが代わりに行います。

また、通える範囲に「産後ケア教室」がある場合は、1コース4回分の受講料を福利厚生として補助し、産後のリハビリ期に必要な「産後ケア」に取り組めるようにしています。

マドレボニータ写真

太田:私の育休中は入れ替わり立ち替わり、スタッフやインストラクター、友人たちサポートに来てくれて、本当に助かりました。夫がプロジェクト・マネージャーのように活躍し(笑)、スケジュールの把握や管理などを行なってくれ、友人や親も巻き込んで、みなで産褥期を支えてくれました。

吉岡が家の近くまで来てくれて、復帰後の仕事のイメージなど共有する機会を持ったこともありました。

吉岡産育休中のスタッフとのコミュニケーションは大切です。産育休中は「本当に戻れるのか?」「復帰したら迷惑にならないだろうか?」と不安になる人が多いので、気軽にコンタクトできるようにしておいたほうがいいと思います。

私たちが行なった調査で、産後ケアをしっかり行うと、復職後の意欲、産育休中の時間の使い方、夫とのパートナーシップによい影響を与えることが証明されました。

NPOの多くは小さな組織で、大きなインパクトを出そうと頑張っており、一人でも人が欠けることは大きな損失ですよね。だからこそ、産育休中のスタッフのケアを、団体としても重視するべきです。産後ケアは離職防止や復職後のモチベーション維持に効果的で、産育休中のスタッフ本人だけでなく、その家族や、所属する組織にとってもメリットが大きいのです。

産後ケアの重要性を広めていくためにも、マドレボニータの組織の中でもその実践を積み上げていきたいと思っています。

(インタビュー・文  / パブリックリソース財団 瀬名波雅子)

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<参考情報>

●「仕事と育児の両立」への取り組み概要

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【団体情報】 認定NPO法人 マドレボニータ
「産後」に特化したヘルスケアプログラムを開発・提供し、母となった女性が心身ともに健やかに人生を送れるようサポートしているNPO

設立年 : 1998年(2008年 法人格取得)
体 制 : 有給職員12人、認定インストラクター29人(養成・認定後、外部契約)
住 所 : 〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿1-15-9シルク恵比寿403
※ただし職員全員がリモートワークで、各自宅などにてオンライン勤務している。
U R L :https://www.madrebonita.com/