「仕事と育児の両立」に取り組むNPOのインタビュー。

第3回目となる今回は、児童労働をはじめとする子ども・若者の権利侵害の問題に取り組むNPO法人ACEの事務局長で、2015年から16年にかけて産育休を取得した白木朋子さんにお話を伺いました。

ACE白木さん写真
白木朋子さん
NPO 7団体の「仕事と子育ての両立」事例についてヒアリングしてまとめた「NPO ではたらく×そだてる NPO の“仕事と子育ての両立”事例集」掲載団体のインタビューを、順次、本サイトでも掲載していきます。

<NPO事例インタビュー>
第1回: かものはしプロジェクト
第2回: トイボックス

スタッフの働き方やモチベーションに課題を抱えるなか、代表理事と事務局長の妊娠がわかる

代表理事の岩附と私を含めた学生5人でACEを立ち上げたのは1997年のことです。当初は6ヶ月限定のつもりでしたがその後も活動を続け、2005年に法人格を取得しました。


——創設メンバーであり、それぞれ代表理事と事務局長という立場にある岩附さんと白木さんの出産時期が2015年に重なったそうですね。

はい。岩附の第二子出産が15年1月で、私の第一子出産が15年5月と、ほとんど同時期でした。

岩附は第一子出産の際に11年から12年にかけて産育休を取得していましたが、岩附と私の二人がほぼ同時期に休みを取るというのは、ACEの創設以来初めてのことでした


——当時、団体はどのような状況にあったのでしょうか?

私たちが産育休に入る前年の2014年は、事業は比較的安定していました。しかし、スタッフの働き方やモチベーションに課題を抱えており、そうした状況を打破する必要性を感じていた時期です。

もともと私たち二人は「自分たちがいなくてもちゃんと回っていく組織を作ろう」という思いを持っていましたが、そのための取り組みにはなかなか手を付けられずにいたので、この機会に必要な制度をしっかり策定しようと決めました。

若いスタッフも多かったので、ライフステージの変化に合わせた組織基盤の見直しがちょうど必要なタイミングだったんです。

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——スタッフの方たちの働き方やモチベーションに課題があったとは、具体的にどのようなことでしょうか?

2012年7月に岩附が第一子を出産し13年1月に復帰したのですが、8月の決算が赤字となってしまいました。この年の決算は会計年度の変更のため8ヶ月の短期決算だったのですが、赤字決算になったのは団体として初めてのことでした。

産育休による代表の不在に伴い、スタッフは多忙を極め、組織内のコミュニケーションがうまく取れていませんでした。皆がそれぞれがんばっているのに業績は不調、達成感も得られず、徒労感だけが残るという状況でした。

岩附と私の妊娠がわかったのは、そうした課題をまだ引きずっていた14年のことです。これを機に、腰を据えて組織づくりを進めなければいけないと思いました。


——どのようなことに取り組まれたのでしょうか?

まずははっきりと、「組織をつくるのは人」というスタンスを定めました。

そして、「関係の質」を改善してチームの力を高めようと、スタッフ全員が参加する「学習する組織」の研修を行いました。これは1泊2日の合宿を含め計5回、7カ月の時間をかけました。

ACE 研修の様子
研修の様子


——「学習する組織」とは?

マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授であるピーター・センゲという方が提唱している概念で、「目的に向けて効果的に行動するために、集団としての『意識』と『能力』を 継続的に高め、伸ばし続ける組織」のことを言います。

もともと岩附と私はこのコンセプトに注目していたのですが、私たちが直面していた環境の変化をチームで乗り切るためには、団体が「学習する組織」に変わる必要性を感じました。

研修では、「学習する組織」のキーになるコンセプトを学び、自分や相手のニーズを探りながら「自分のありたい姿」と「組織のありたい姿」を導き出して、スタッフ間で共有しました。個人と組織を切り離して考えるのではなく、スタッフ一人ひとりの「ありたい姿」から、組織としての共有ビジョンを見つけようとしたのです。

こうした研修を、時間をかけて複数回行うことで、互いの理解が進んで組織のビジョンが明確になっていきました。

各スタッフが業務の目標を設定し、仕事だけでなく、個人のあり方やライフスタイルを考える機会を設けるため、「ワークプランシート」という新しいツールも導入しました。現在も定期的に作成し、共有とフィードバックを行なっています。

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——その他には、どのようなことに取り組まれたのでしょうか?

従来は代表と事務局長が各事業の業務を管理していたのですが、代表や事務局長が不在でも、各チームのリーダーが判断して事業を行えるようにするため、事業別にチーフを決めて権限を委譲していくことにしました。

2015年は私が産育休に入るタイミングで岩附が復帰したので、実際には二人同時に休む時期はなかったのですが、岩附が先に産育休に入るまでに二人の業務の仕分けを済ませ、代表と事務局長でなくてもできるものは他のスタッフに振り分けました。

私はもともとアフリカ・ガーナでの事業を担当していて年3回現地に出張するような生活だったのですが、妊娠を考え始めた頃から、自分がいつ不在になっても事業が止まることのないように、新たに担当者を加えるなどの備えをしてきました。

ですから、私たちの産育休のために欠員を補充するということはせず、すでにいるメンバーが責任と権限を持って事業を回していけるような体制にしました。

また、私たち二人の業務を仕分けし、権限委譲を進めたこの機会を捉えて、スタッフの働きやすさについても見直しを行い、在宅勤務制度を導入することにしました。

ACE


—もともと在宅勤務やリモートワークはされていましたか?

代表の岩附と事務局長の私は在宅勤務をすることはありましたが、団体に制度があったわけではありません。

そのため在宅勤務をはじめとする柔軟な働き方を実現するための制度やツールを新たに整備する必要がありました。これには「働きやすさの実現」という意味合いだけでなく、事業の拡大とともにスタッフ数が増えており、事務所のスペースが足りなくなってきたという現実的な課題もありました。

在宅勤務制度は、私の産育休前から徐々に準備を始め、15年末に策定、導入しました。

制度やツールを活用し、柔軟に働ける環境を実現する


—在宅などリモートでの勤務を実現するために、どのように環境を整備されたのでしょうか?

まずデータにどこからでもアクセスできるようOffice365を導入し、サーバーをクラウド化しました。古いデータはローカルに置いたままにしましたが、新しいデータの保存先はクラウドにしました。

リモート勤務に便利なツールの導入も進めました。

SharePointでどこにいても同じ環境で仕事ができるようにし、ミーティングはSkype for Businessで行っています。組織内部のコミュニケーションにはチャットツールのYammer、労務管理にはチームスピリットを使用しています。


——行政等の支援制度で活用されたものはありますか?

「働きやすさ」や「産育休からの復帰」をキーワードにリサーチし、厚生労働省や東京都の助成事業に応募しました。

助成制度を使いながら、在宅やリモートでの勤務だけではなく、育休中に仕事へ部分的に復帰した際の労働条件の取り決め、リフレッシュ休暇や有給休暇の計画的付与、契約・パートスタッフの正規雇用転換なども進め、組織全体の働き方を見直すことができました。

*活用した制度

名称 内容
中小企業のための育休復帰支援プラン導入支援事業、「育休復帰支援プラン」策定支援 中小企業が、自社の従業員の円滑な育休の取得及び育休後の職場復帰を支援できるようにする、厚生労働省による支援事業
東京都中小企業ワークライフバランス推進助成金 都内に本社を置く従業員300人以下の中小企業等に対して、仕事と生活の両立を図るため、在宅勤務、モバイル勤務といった多様な勤務形態の実現等、ワークライフバランスの推進にかかる経費の助成制度を実施
女性の活躍推進責任者設置等奨励金 人材育成研修修了者を、「女性の活躍推進責任者」として設置した企業に対し、支給される
働き方改革助成事業 TOKYO働き方改革宣言企業に対し、働き方・休み方の改善を図るため、新たに導入した制度の利用促進を図るための取組に対して助成

「ない制度はつくる」「変わることへの抵抗感は持たない」という姿勢が定着


——そうした取り組みがもたらした組織の変化について教えてください。

「学習する組織」の研修に端を発し、「組織のあり方」と「個人のあり方」をつなげて考える機会を定期的に設定することで、結果として職員同士の相互理解が深まり、質の高いコミュニケーションが取れるようになりました。

組織のビジョンだけでなく個人の「ありたい姿」に重きをおくようになり、残業時間が減り、有給休暇の取得率が高まるなど、働き方や休み方も改善されつつあります。

また、各チームのリーダーを決めて権限を委譲するにあたっては、その過程で代表と事務局長の業務が可視化されました。業務の内容が誰にでも見えるようになれば分担することが可能になり、職員がリーダーシップを持って主体的に事業を推進できる体制が整いました。

在宅やリモートでの勤務についても、今では契約・パートタイムスタッフを含めて全スタッフが利用できる制度になっています。子育てや介護、通勤に課題を抱えるスタッフが主に利用していますが、そうした事情がなくとも、希望すれば使えます。

業務を進める体制や働き方、休み方に関わる制度が整備されたことで、多様な働き方ができる、多様な働き方をしてもいいんだ、という雰囲気ができています。組織の中にない制度はつくる、変わることへの抵抗感は持たないという姿勢が定着してきたようにも思います。


——同じような課題意識を持ち、取り組みを進めたいと思う組織や個人にメッセージをお願いします。

女性は、妊娠出産などのイベントがあるからリーダーを任せられない、と思われる方もいるかもしれません。でもそんなことはなく、女性リーダーのライフイベントを、組織やチームメンバーの成長機会として捉えることができますし、さらなるチーム力の強化につなげることができます。

女性自身も、あきらめる必要はありません。「こうでなければ」という囚われを捨てて、自分が望むなら実現のための道を追求していい、欲張ってもいいんじゃないかな、と思っています。

—お忙しい中、ありがとうございました。

(インタビュー・文  / パブリックリソース財団 瀬名波雅子)

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<参考情報>

●「仕事と育児の両立」への取り組み概要

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【団体情報】 認定NPO法人 ACE
児童労働をはじめとする子ども・若者の権利侵害の問題に取り組むNPO

設立年 : 1997年(2005年 法人格取得)
体 制 : 正規スタッフ10名(男性2名、女性8名)、
パート・契約スタッフ5名(女性5名)
住 所 : 〒110-0015 東京都台東区東上野1-6-4 あつきビル3F
URL: http://acejapan.org/