「仕事と育児の両立」に取り組むNPOのインタビュー。

第2回目となる今回は、NPO法人「トイボックス」の代表理事・白井智子さん(05年、08年、12年に産育休取得)にお話を伺いました。

mamapre_01
白井智子さん
NPO 7団体の「仕事と子育ての両立」事例についてヒアリングしてまとめた「NPO ではたらく×そだてる NPO の“仕事と子育ての両立”事例集」掲載団体のインタビューを、順次、本サイトでも掲載していきます。

<NPO事例インタビュー>
第1回: かものはしプロジェクト

初めての産育休取得で現場が混乱。産後1ヶ月半で職場復帰することに。


—— 白井さんは産育休をこれまでに3回経験されたそうですが、最初の取得はいつですか?

2005年です。
私たちは2002年に大阪府池田市教育委員会より委託を受け、日本初の公民協働型不登校・ひきこもりの子どものためのフリースクール事業をスタートしました。2005年はまだ3年目で事業は小規模でしたが、代表がいないと回らないという状態だったので、てんやわんやになりました。

——休暇取得にあたり、どのように対応されたのでしょうか?

産育休に入る前に、代表の代行をしていただく方をお願いしたのですが、急に団体に加わった方に、すぐに事業をお任せするのはやはり難しくて、大変なご苦労をかけてしまいました。

私自身もはじめは「どうにかなるだろう」と楽観していて、少なくとも数ヶ月間は休みを取ってから仕事に復帰しようと考えていたのですが、産後1ヶ月半で現場から「もうどうにもならない」と声が上がり、すぐに戻ることにしました。まだ首がぐらぐらの子を抱えてね(笑)。

子連れで通勤し、自費でベビーシッターを雇って、私が仕事をしている間子どもを見てもらっていました。

労働基準法や就業規則が適用されない「経営者」という立場。周りにロールモデルもいない中で。


——当時、産育休について就業規則などで定めていらっしゃったんですか?

団体の発足当時は少人数でスタートしたこともあり、就業規則を整備するという意識がありませんでした。また、代表理事は経営者であるため、労働基準法に定められた産前産後休業や、育児介護休業法による育児休業が適用されません。私は業務委託という形態で代表理事を務めていることもあり、いずれにしても規定の対象外でした。

<参考記事:「女性経営者」「フリーランス」と、出産育児に関する社会保障制度

ただ、私の産育休取得は組織にとって初めての事例でしたから、今後スタッフが取得することを見据えて就業規則等を整備する必要があると気付くきっかけとなりましたし、「属人的な仕事」から「組織としての仕事」にシフトしなければならないとも痛感しました。


——2回目、3回目の時はどのような状況でしたか?

2回目は2008年で、事業規模も今ほど大きくはなっていませんでした。最初の産育休で現場が大混乱したことの反省を踏まえ、私個人でどうにかするのではなく、「チームで乗り切る」という方針を立てました。

1回目の経験から起こり得る事態もだいたいわかっていましたから、事業責任者を置いて定期的にミーティングを行うなど、自分が抜けてもチームで対応できるように準備をしてから休みに入りました

3回目の時は、前の2回とは少し事情が異なりました。産育休を取ったのは2012年だったのですが、この年は震災後、福島県南相馬市に子どもの支援施設を作ろうという話がまとまった直後に妊娠がわかったんです。

南相馬の事業はゼロからのスタートで、地元で信頼関係を作るのに時間を要したこともあり、しばらくは周りに妊娠していることは言えないまま、南相馬まで通っていました。往復8時間かけて。今思えば、大変な日々でしたね。

2008年、2012年に産育休を取ったあとは、子どもを生後2ヶ月で保育園に預けて職場復帰しました。

スクリーンショット 2018-07-24 14.56.48


——今でこそNPOを立ち上げた女性経営者が産育休を取得する事例も増えてきていますが、白井さんが初めて取られた2005年当時は、まだとても珍しいことだったのではないでしょうか。

そうですね。ロールモデルが全くいなかったので、何をするにも手探りでした。最初の時は私も右も左もわからない状態だったので、まさに暗中模索でした。

2回目、3回目の産育休から復帰した後も、同じような立場の女性経営者は少なく、団体内に子育てをしているスタッフもいなかったので、私のほうにも「家庭を仕事に持ち込んではいけない」という遠慮がありました。でも、それだと新しいモデルは作れないんですよね。

私が遠慮して周りにヘルプを求めない状態は、団体にとっても好ましくない。それでは他のスタッフも遠慮してしまう。だから気持ちを切り替えて、自分たちで新しいモデルを作っていくんだと思うようになりました。


——そのように切り替えられたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

一つはゴールドマン・サックス社(以下、GS)のプロボノプログラムです。外からの客観的な視点で、私たちがこれからすべきことを共に考えてくださいました。


——具体的にはどのような取り組みを?

プログラムが行われた2016年当時、私は自らの経験から、子どもの預け先が近隣に足りないという悩みを抱えていました。また、団体のスタッフが子育てをしながら安心して仕事を続けられる状況をつくりたいという思いを持っていました。

プログラムでは、企業内保育所の設置や育児支援の助成金などについて現行制度の調査を行っていただき、また、仕事と子育ての両立に関する思いや不安について、スタッフにヒアリングも実施していただきました。

ヒアリング結果を受けて、就業規則で産育休取得についてきちんと規定しました。それに従って男性スタッフが初めて育児休暇を取得し、さらに男性が5日以上育休を取得すると助成金が出る制度も活用しました。

私自身の事例は、経営者という特殊な事情もあって、そのままでは団体のスタッフのモデルケースとはなりません。しかし、団体のこれからを考えたときに、仕事と子育てを行っている当事者として私が取り組めることはたくさんある。そのためにどう他のスタッフを巻き込んでいけばいいかなど、気づきの多いプログラムでした。

私は夫(共同代表・栗田拓さん)とNPOを運営しているという事情もあり、完全な第三者による外からの視点というのは持ち得なかったので、その点でもありがたかったです。

「自分にしかできない仕事」を減らし、「誰が抜けても回る仕組みづくり」を。


——仕事と育児の両立を進めるにあたり、今はどのようなことに取り組んでいますか?

まずは、業務のマニュアル化です。妊娠・出産に限らず、担当者が不在となっても業務に支障が出ないよう、一人ひとりの業務を細分化し、マニュアル化を進めています。

限られたスタッフで運営しているので、どうしても属人的な仕事も多くなります。だからこそ意識して業務を細かく切り分けて、「自分にしかできない仕事」を減らしていかないと、いざという時に自分も周りも困ってしまいます

自分が産育休を取った時の気づきから、「誰が抜けても回る仕組みづくりが必要」と周知できるようになりました。

また、代表理事である私の仕事は幅広いので、業務の細分化と並行して、私でなくても対応できるように、権限の委譲も進めています。

db0bdc9651022e9fdf53d83285d22114_m

時短勤務やパートタイム、正規から契約スタッフへの切り替えなど、スタッフの事情に応じて勤務形態が選択できるように。

就業規則の見直しや柔軟な運用にも、引き続き取り組んでいます。

産育休についての規定は整備済みで、既に拠点スタッフも含め男女ともに利用できるようになっています。現在はスタッフの事情と希望を聞きながら、時短勤務やパートタイム、正規から契約スタッフへの切り替えなど、スタッフの事情に合わせて勤務形態を選択できるよう対応しています。必要があれば、その都度就業規則も見直すようにしています。


——個々の事情は変わるものですから、柔軟な勤務形態をその時々に選べるというのはとても心強いですね。

そうですね。スタッフには、自分の事情が変われば団体も臨機応変に対応してくれる、だから長く働き続けられると感じてもらえているのでは、と思います。

もともと残業代を支払う余裕がなかったことで、残業をしない・させない文化が定着していました。「子どもと接するには、まず大人の余裕が大切」というのが団体のポリシーで、そのために制度や規則を変えていくことに、ためらいはありません。「ないものはつくる」「やってみて、うまくいかなければやり方を変えてみる」という姿勢でいます。


——トイボックスは本部の他に複数の拠点があり、本部と拠点の両方に一律に適用できる人事評価制度や勤務体系を構築するのはなかなかむずかしいのではありませんか?

確かに、以前は本部と拠点の考え方に齟齬が生じてしまったこともありました。

今は、給与や評価をどのように決定するのかの基準を明確にし、拠点スタッフの評価はその拠点の責任者が行うようにしています。専門性やチームワーク、セルフマネジメントといった項目を細かく定めて、その内容はスタッフに周知し、評価は必ず本人にフィードバックすることでコミュニケーションを図っています。


——仕事と育児の両立に関して、今後の課題があれば教えていただけますか。

先ほどマニュアル化や業務細分化を進めていると言いましたが、どんなに頑張っても属人的な仕事をゼロにはできないことは課題かなと思います。

例えば私たちが運営しているフリースクールには高卒の単位が取れるコースがあるのですが、そこには資格を持った教務主任がいなければなりません。もしこの教務主任が急に休みを取ることになったら、スクールに通う子どもたちが困ることになる。こうした問題はマニュアル化や業務細分化とは別の話で、有資格者であるそのスタッフと切り離せません。

また、団体の立ち上げ当初からずっと私がやってきた外部との調整など、どうしても誰かに代わってもらうのが難しいこともあります。

そうした課題はありつつも、スタッフが安心して子育てしながら仕事ができる環境を作るのが私の役目だと思っているので、まずは私から、そして私の家庭から、実践を積んでいきたいと思っています。

——お忙しい中、ありがとうございました。

(インタビュー・文  / パブリックリソース財団 瀬名波雅子)

———————————————
<参考情報>

●「仕事と育児の両立」への取り組み概要

トイボックス取り組みまとめ

【団体情報】 NPO法人 トイボックス
子どもと若者の自立と成長を支えるソーシャルサービスを提供しているNPO

設立年 : 2002年(2003年 法人格取得)
体 制 : 常勤スタッフ34名(男性16名/女性18名)非常勤スタッフ59名(男性22名、女性37名)
住 所 : 〒550-0015 大阪市西区南堀江2-13-30 サンイーストビル9F
U R L :http://www.npotoybox.jp