「仕事と育児の両立」に取り組むNPOのインタビュー。

第一回目は、認定NPO法人「かものはしプロジェクト」の共同代表・村田早耶香さん(16年産育休取得、17年復帰)と、経営企画・管理担当の辻桂子さんにお話を伺いました。

プロフィール写真(村田)
村田早耶香さん
プロフィール写真(辻)
辻桂子さん
NPO 7団体の「仕事と子育ての両立」事例についてヒアリングしてまとめた「NPO ではたらく×そだてる NPO の“仕事と子育ての両立”事例集」掲載団体のインタビューを、順次、本サイトでも掲載していきます。

初めの10年間は考えられなかった、「代表の自分が抜ける」ということ

— 村田さんが産育休を取得された2016年は、団体にとっては、どのようなステージだったのでしょうか?

村田:比較的、事業は安定していた時でした。

私たちは2002年に大学生3名で団体を立ち上げ、2004年に法人格を取得しました。最初の10年間は無我夢中で走り抜け、創設者でもあり代表でもある自分が長期の休みを取ることは全く考えられませんでした。団体を立ち上げて10年が過ぎ、15年が見えてきた時期だったからこそ、自分が抜けても大丈夫という気持ちになれたのだと思います。

かものはし収益

— それでも10年以上代表を務めてこられて、その役割からいったん離れるというのはとても大きなことだと思います。村田さんと同時期に、もう一人管理職を務める女性が産育休を取得されたそうですね。

村田:はい。広報・ファンドレイジングマネージャーを務めるスタッフです。団体創設後、管理職が産育休を取る例としても初めてでしたし、同時期に2名抜けるというのも初めての経験でした。

管理職2名が同時期に産育休を取得。職員の増員は行わず、チーム全体で業務の棚卸し、予算目標の見直しを行う

— お二人の仕事の引き継ぎなどは、どのように行ったのでしょうか?

村田:私どもの団体には当時常勤スタッフが10名程いましたが、広報・ファンドレイジングマネージャーと私は二人ともファンドレイジング事業部の管理職で、私たちを含めて4名のチームで働いていました。

私が心配だったのは、残る2名の業務量が増えてしまうことと、予算の目標が達成できないのでは、という、主にこの2点です。これらの懸念には、引き継ぐ業務を最低限にすることと、予算目標を調整し、残ったスタッフで達成できる数字に修正することで対応しました。

チーム全員による何度かの会議で、休みに入る2名の仕事を、①残る2名に引き継ぐもの、②産育休から復帰後に行うもの、③「やらない」と判断するものに仕分けしました。

例えば主に私の仕事だった講演は、残るスタッフに引き継ぎ、そのための研修なども受けてもらいました。また、取材対応などは、先方へ事情を説明して、断るか復職後に延期してもらうことにしました。

そんな中、どうしても「私にしかできないこと」があったのも事実です。寄付集めなどはやはり属人的なところがあり、「村田だから」と言って支えてくださる大口の寄付者もいらっしゃいました。そうした方への説明など、特定の方たちとのコミュニケーションは私が休みに入る前に全て終わらせることにしました。

また、部署の管理職2名の不在中は、他事業部のディレクターで共同創設者でもある本木に、広報・ファンドレイジング事業部のディレクターも兼務してもらい、事業の統括をお願いしました。

— スタッフの増員などは検討なさらなかったのですか?

:今までの経験から、新しいスタッフが組織に馴染み、仕事で力を発揮するまでには時間がかかることが多いとわかっていました。ですので、増員はせず、「いる人ができることをする」という方針を貫くことにしました。

— 予算の見直しは、どのように行ったのでしょうか?

村田:16年度に関しては右肩上がりの高い目標を立てるのではなく、残ったスタッフだけでも頑張れば達成できるよう、前年度実績と同水準の目標にしました。結果、無事に達成できたので良かったです。

管理職2名の産育休取得を、全てのスタッフが働きやすい組織づくりのきっかけに

:二人の休暇取得を契機に、スタッフ全員の働きやすさの見直しを行いました。もともとフレックス制度や在宅勤務制度を導入していたりして柔軟に働ける組織ではあったのですが、スタッフのヒアリングを元に、さらに使いやすい運用へと変更しました。

—どのような点を変更されたのでしょうか?

:フレックス制度は、職員なら誰でも使うことができる制度です。従来はコアタイムを一律に10時から15時までと定めていたのですが、夜に講演などの仕事がある場合はコアタイムを各自ずらして勤務できるようにしました。勤務時間の変更は、TeamSprit(チームスピリット)で連絡します。

在宅勤務を希望する場合、従来は事前にディレクターなどの承認が必要でしたが、それを不要とし、Chatwork(チャットワーク)で当日申請できるようにしました。承認のハードルが下がったことで、子どもがいるスタッフは突発的な事態に応じて在宅勤務が選択でき、子どもがいないスタッフも気軽に申請できるようになりました。

仕事中の写真
オフィスの様子


— ドキュメントのクラウド化など、遠隔でも仕事ができる仕組みづくりはどのように行ったのでしょうか?

村田:団体立ち上げ当初から書類やデータの「ペーパーレス化」を意識していました。紙の保管ではなく、データに落としてパソコンで管理できるようにしていたので、ハードルはありませんでした。

セキュリティ面についても、期間限定のインターンや退職したスタッフのアカウントは即刻アクセス不可にする、重要書類はアクセス権限を限定するなど、工夫しています。

— もともと、リモートワークがしやすい土壌があったのですね。

:そうですね。資料等の保管にはDropboxを、メールやデータ管理はGoogleのサービスを使っています。

外部リソースや制度を活用し、復職後の働き方を整える

— 復職される際には、どのようなハードルがありましたか?

村田:何よりも、保育園に入れなかったらどうしようというのが一番の懸念でした。出産を機に私は実家の近くに引っ越したのですが、保育園に入れなかった場合はどれくらい親からのサポートを受けられるか、ベビーシッター代は月いくらかかるかなど、必死で考えたりして。保育園の問題は、本当に大きかったですね。結局、私ももう1名の産育休取得者も子どもが保育園に入れたので、揃って2017年度に復職することができました。

復帰のための団体側の仕組みづくりはどのように進められたのでしょう?

村田:ゴールドマン・サックス社(以下、GS)のプロボノプログラムを活用させていただき、体制を整えることができました。16年9月末からの3ヶ月間、「子育てと仕事の両立」をテーマにGS社員の方が団体への伴走支援をしてくださり、両立の支援策や実施プラン等を提案していただきました。

私も同時期に産育休を取っていたスタッフも、育休が終わっていきなり復職ということではなく、育休中から部分的に仕事復帰したいと考えていました。

GS社員の方から「一時的就業」制度を教えていただいたのでそれを活用することにし、同時にかものはしの団体規程を見直して、育児休業給付金の額が減ることなく給与を支払えるようにしました

GSのプロボノ社員6名のうち2名は法律の専門家でもあったので、労務管理の観点から様々なご提案をいただけたのは大変ありがたかったです。また、産育休からの復帰だけではなく、組織全体の運営という観点からもアドバイスをいただけました。外部の方だからこその視点もあり、学びの多いプログラムでした。

:他にも、「育休復帰支援プラン」を作成し、それに則って周囲も復帰をサポートすることにしました。こうした参考にできる指針があるのはありがたかったです。

また、「一般事業主行動計画」を策定し、厚労省へ届け出ました。男性が5日以上育休を取得すると助成金がもらえる制度を活用し、その後育休を取った男性スタッフもいます。

— すばらしいですね。かものはしさんはもともと、外部リソースの活用を積極的にされているイメージがあります。GSのプロボノプログラムのほか、お二人の産育休中や復帰にあたり、どのようなリソースを活用されましたか?

村田:私たちはもともと自団体スタッフ数を最小限にする一方、コンサルタントや広告代理店などの専門家集団の力を活用し事業を行ってきました。管理職2名が休みを取っている間、もともとつながりのあった各団体へより手厚いサポートを依頼し、残るスタッフを支えてくださるようお願いしました。

  • 活用した外部リソース
カルミナ 非営利組織専門のITコンサルティング会社。2016年から業務委託契約しており、広報やWebマーケティングのシステム周りのサポートを担当。
Crescendo 外資系コンサルティングファームで経験を積んだ2人によるNPO経営コンサル。広報・ファンドレイジングの事業計画策定をサポート。
ココラブル 広告代理店。2016年業務委託契約開始。2名の産育休取得時にポテンシャルドナーに対し、オンラインで団体が解決したい問題と事業活動を伝え、寄付を通じて応援いただくための施策を残ったスタッフとともに行った。
サイカンパニー 広報物(主に年次報告書)とWEBサイト担当。以前より取引があり、実績もあることから、不在中も安心して任せられた。

— 村田さんは実際に産育休を取得して、ご自身と団体における一番の変化はどんなことだったと思いますか?

村田:まず自分に起きた変化としては、「私がやらなければ」という固執が、良い意味で消えました。自分が抜けても大丈夫だということがわかりましたし、できないことはできないと言えるようになりました。

組織全体としては、元々の行動規範でもある「活私奉公」(自分の幸せを最大化しながら組織に貢献する)への意識がよりビビッドになり、この団体で安心して働き続けるイメージがしやすくなったのではないかと思います。

産育休中、残って業務を回してくれたスタッフも大きく成長しましたし、今は「休みを取ってよかった!」と心から思っています(笑)。

— 今後の課題としては、どのようなものがありますか?

産育休に入る前の業務の棚卸しについては、今回は手探りで行なった部分があるので、今後はマニュアルが必要だと思っています。また全体においても、全業務の可視化と、部署をまたいだ情報共有をスムーズにする必要があります。

これからも、特別な事情のあるスタッフだけではなく、全職員にとって使い勝手の良い仕組みをつくるべく、その時々のニーズに合わせた改善をしていきたいです。

—お忙しいなか、ありがとうございました!

(インタビュー・文  / パブリックリソース財団 瀬名波雅子)

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<参考情報>

  • 「仕事と育児の両立」への取り組み概要

取り組みまとめ「かものはし」

  • 活用しているオンラインツール
TeamSprit 勤怠管理、就業管理、経費精算、工数管理、電子稟議、SNS、カレンダーの7つの機能を融合したクラウドサービス。NPOは初期費用50% OFF。
Chatwork クラウド会議室。グループチャット、タスク管理、ファイル共有、ビデオ通話/音声通話が可能。NPOはチャットワークビジネスプランを無償提供。
Dropbox ファイル共有とストレージ。非営利機関を対象とした割引制度あり。
【団体情報】 認定NPO法人 かものはしプロジェクト

設立年 : 2002年(2004年 法人格取得)
体 制 : 常勤スタッフ12名、うち、未就学児の子育て中6名(男性2名、女性4名)
住 所 : 〒150-0012 東京都渋谷区広尾5-23-5長谷部第一ビル402号室
U R L : http://www.kamonohashi-project.net/