多様化する“N女”(*1)の働き方

NPOでは、代表理事や理事長が女性という組織は多くあります。

ある調査によると、代表が女性であるNPOの割合は全体の29.5%で、営利企業(23.3%)よりも高いことがわかっています。(*2)

一般にも「女性起業家」「女性経営者」という言葉は、それほど珍しいものではなくなってきました。

現在、国内にいる女性経営者は37万人。(*3)

現政府が起業家育成や女性活躍推進の呼びかけに合わせて「女性経営者育成」に注力していることもあり、その数は年々増えています。

また、政府は働き方改革においても「多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会」を追求しており、フリーランスという働き方が注目を集めています。

実際、フリーランスで働く人は推計1,122万人(労働力人口の17%)。(*4)

フリーランスというと、ひと昔前まではライターやデザイナーなど一部の職種に限られた働き方のように思われていましたが、現在は事業企画や広報、経理等、多様な職種においてフリーランスで働く人が増えてきています。

ソーシャルセクターでも、フルタイム職員にはならないけれど、専門性を活かして貢献したい人材がフリーランスとして関わるという選択肢が登場、団体側も多様な専門人材を求める局面が増えています。

この記事を書いている私(パブリックリソース財団/瀬名波)も、フリーランスで働く一人です。2015年に勤務していたNPOを退職し、2年のアメリカ滞在を経て日本に帰国した昨年夏から、フリーランスとしてNPOとベンチャー企業など、複数の組織で仕事をしています。

時代の後押しもあり、代表が女性というNPOも、専門性を有したフリーランスを活用して事業を展開していくNPOも今後ますます増えていくのではと思われます。

しかし、女性経営者やフリーランスが出産・育児というライフイベントを迎えたとき、そこには大きな課題があります。

どのような課題でしょうか?

「被雇用者」でないと使えない社会保障制度

実は、女性経営者やフリーランスは、出産や育児に関する社会保障制度の多くが対象外です。

経営者とフリーランスに共通するのは、「雇用関係によらない=雇われているのではない働き方」です。

そのため、労働基準法に定められた産前産後休業や育児介護休業法による育児休業が適用されません。労働基準法は「労働者=被雇用者(組織に雇われている従業員)」を守るための法律であるため、経営者やフリーランスは適用対象外なのです。

さらに、経営者やフリーランスは雇用保険に加入できないため、育児を理由に休みを取っても、雇用保険から出る育児休業給付金はもらえません

国民健康保険に入って入れば出産育児一時金は受け取れますが、健康保険(社会保険)に加入していなければ、出産手当金(出産に伴う休業期間中の所得補償)は支給されません

また、被雇用者には適用される産前産後から育児休業期間中の社会保険料の免除がありません。(2019年4月より国民年金の納付は免除となったが、国民健康保険料や介護保険料は引き続き納付が必要)

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引用:「保険のビュッフェナビ」『私も大丈夫?妊娠・出産でもらえるお金を確認しよう』

被雇用者であれば支給される上記のお金のうち、経営者やフリーランスが受け取れるものは、基本的に「出産育児一時金」だけです。

有志の女性経営者らが設立した「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」が2017年12月に実施したアンケート(*5)によると、「被雇用者」(一定の要件を満たした派遣・パートなどの非正規社員含む)と、フリーランスや経営者などの雇用関係によらない働き方の従事者は、出産・育児に際してもらえるお金と出費に約300万円の差があることがわかりました。

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引用:「フリーランスと経営者の妊娠・出産・子育てに関する緊急アンケート調査」結果より

多様な働き方に、追いついていない社会保障制度

私も幼い子どもを育てながらフリーランスで組織に属さない働き方を実践してみて、融通を効かせやすい柔軟な勤務スタイルに助けられることも多々ありましたが、正直、「不安定だな」と感じることも多くありました。

何に不安定さを感じているかというと、まさに「出産や育児に関する社会保障制度」が基本的に被雇用者のみに適用するという事実に、です。

さらに、働いてはいるものの被雇用者でない場合は、自治体によって「保活」が圧倒的に不利だということを、身をもって知ることになりました。

育休が取れない=「保活」でますます不利に

フリーランスはよく「保活」で不利と言われます。在宅で仕事をする場合などは「家で仕事するなら、子ども見られますよね」と言われ、自治体によっては選考ポイントが低くなります。

さらに、経営者もフリーランスも産前産後休業制度と育児休業制度がない、ということは、出産後、育児のために仕事をセーブした状態で保育園申請せざるを得ず(例えば、育児休業を取っている会社員なら出産前のフルタイムで働いていた実績で評価されます)、選考の利用調整で政府が自治体に推奨する「育休明け加点」が付くこともあり得ません。

こうした事情により、ますます子どもの預け先確保が難しくなる現状があります。

「どのような“形態”で働いているか」によって、出産や育児に関する社会保障が異なる日本

「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」実施のアンケート結果(*5)によると、妊娠・出産後も仕事を継続したフリーランスまたは法人経営者等で、「産後1カ月以内に仕事に復帰した人が44.8%。産後2カ月以内に復帰した人は59%」にのぼるといいます。

法律に定められた産前産後休業制度と育児休業制度が適用されず、または産後の所得補償や社会保険料免除がないため、産後十分な休養を取らずに仕事を再開している実態が浮かび上がります。

今の日本の制度では、「(どのくらい)働いているか」ではなく「どのような“形態”で働いているか」によって、出産や育児に関する社会保障制度が使えるかが決まります。

女性の活躍推進が叫ばれ実際に女性の働き方も多様化している今、社会保障制度の未整備が出産や子育ての足かせとならないよう、経営者やフリーランスも含め、出産や子育てを望む女性が安心して子どもを持ち、育てることのできる仕組みづくりが必要ではないでしょうか。

なお、「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」が、経営者やフリーランスの産休育休期間のセーフティネットを求めて呼びかけている署名サイトChange.orgでは、すでに1万人以上の署名が集まっています

(パブリックリソース財団 瀬名波雅子)

 

(*1)N女:NPOや社会的企業など、ソーシャルセクターで働く女性のこと。「N女の研究」(中村安希著:2016)という本により生み出された言葉。

(*2)東京商工リサーチ第7回「全国女性社長」調査 2017年11月

(*3)日本政策金融公庫「NPO法人の経営状況に関する実態調査」2012年

(*4)ランサーズ「フリーランス実態調査」2017年

(*5)同研究会が「現在20〜50歳までのフリーランスまたは法人経営者等であり、雇用関係にないため産休・育休を取得できず、働きながら妊娠・出産・育児をした経験のある女性」を対象に実施したアンケート(有効回答数:353)