NPOで起きている「仕事と子育ての両立」課題はNPO独特のものなのか?『「育休世代」のジレンマ』著者であり、20~30代女性の「仕事と子育ての両立」を取り巻く状況に詳しい中野円佳さんにお話を伺い、NPOにおける両立の取組意義や取り組みの方法を一緒に考えていただきました。

_DSC1650-9

■contents
・この数年で「両立」をとりまく世論が変わった
・NPOの両立取り組みにおける課題は、NPOだけの課題ではない
・NPOで働く人のワークライフバランスを高める
・外部リソースの活用は重要なテーマ
・構造的な課題は、声を上げていけ!

この数年で「両立」をとりまく世論が変わった

―「仕事と子育ての両立」を取り巻く環境がここ数年で大きく変わっているように思えます。保育園の整備や長時間労働削減の推進など、両立しやすい環境整備が進んでいるように思いますし、個人レベルで見ても意識が変わりつつあるように感じています。どのような背景で議論が進んでいったのでしょうか?

『「育休世代」のジレンマ』出版は2014年ですが、調査は2012年に行いました。調査当時と比べると、世の中が変わってきたように感じます。

NPOはどうか分からないのですが、2012年頃、企業に勤めている女性正社員の多くは「両立はできるが、活躍はできない」状況でした。制度が整い、仕事を続けられはするけど、やりがいのある仕事が任せてもらえず、両立のモチベーションを維持しにくい状況にありました。2012年末に第二次安倍政権が発足し、女性活躍に向けた取組が始まりましたが、当初は女性が活躍できないのは、女性自身の意欲の問題ではないか?といった議論から始まったように感じます。

『「育休世代」のジレンマ』を出版した2014年になると、ちらほらと、特に大企業で、総合職入社した女性が出産後に活躍できていない状況が課題認識されるようになってきました。女性の大学進学率は1990年代以降長期的に上昇しており、特に就職氷河期以降、2000年代後半から、大企業で女性の総合職採用が増えていたのですが、この世代が両立に直面し始めたのです。単純に子育てとキャリアアップのジレンマに直面する女性の数が多くなったことは、この問題が取り上げられるにあたって大きかったと思います。

ここから、私の本の他にも『女性はなぜ活躍できないのか』を出版された大沢真知子先生など、所々の発信により、女性が仕事にやる気がないのではない、自らマミートラックに入っているわけではない、むしろ構造的な問題でやりがいが得られなくなるから自ら会社を去っていくのだという現状認識が少しずつ広まり始めました。データでも裏付けされました。この流れに、保育園の待機児童問題に対して声を上げる動きも加わりました。

2016年には女性活躍推進法が施行され、各社における女性活躍の数値目標の設定が大企業で義務化されました。そして女性活躍に関する議論がひととおり出尽くした結果、課題の根源は長時間労働など働き方そのものにあるという議論へ至り、今の「働き方改革」へつながっていきます。

政府の取組は、男女の家庭・職業上の均等推進を前提に、人材の確保、ダイバーシティの実現によるイノベーションの加速といったテーマへ進んでいます。

この間には労働市場の変化もありました。労働人口減少により、特に若年層の人材難、売り手市場のトレンドに転じたことで、人材確保の観点から、仕事と家庭の両立促進や、長時間労働の削減に取り組んでいく企業も増えました。子育て中の女性をターゲットに「短時間かつやりがいを実現する仕事」を売りにした人材紹介会社も出てきましたね。

―2012年に取材された、仕事と子育てを両立する女性たちのその後はいかがですか。

女性の意欲そのものを問うことはもはや愚問となったのではないでしょうか。議論の前提となる世論が変わりました。しかし、両立がしやすくなったかどうかは別問題です。

ただ、これまで声を上げ続けていても聞いてもらえなかったのが、やっと話を聞いてもらえるようになった、やりたい仕事や責任のある仕事を任せてもらえるようになった、もしくは人事や、ダイバーシティなどの推進側の立場に抜擢されたなど、そういった話を耳にしています。

NPOの両立取り組みにおける課題は、NPOだけの課題ではない

dsc1710-32.jpg

―仕事と子育ての両立を取り巻く環境は、この数年で大きく変わりました。ここからはNPOにおける取組意義や、取組方法について、お考えを伺えればと思います。NPOにおける「仕事と子育ての両立」取組意義はどのようなところにあるでしょうか。

まず、組織のミッションや、NPOにおいては社会課題解決のために、そこに関わる人たちの生活が犠牲になるのは、サステイナブルではないですよね。

NPOに関わる人が特にそう考えているとは思わないのですが、私が各所で訴えていることで。恵まれている人に何か課題があったときに、それを解決していこうと声を上げると、「もっと大変な人がいるんだから我慢して」という論理がしばしば使われますが、これは違うということ。それぞれに解決しなければいけない。

また、両立支援は小さな問題かもしれませんが、この問題を解決しないと組織が取り組んでいる大きな問題の解決の可否にかかわっていくのではないかと感じます。

―サステイナブルでない組織は運営が続かなくなる、NPOでいうと社会課題への継続的なアプローチができなくなるということで、そうなったら本末転倒ですもんね。

一部のNPOは、掲げるビジョンは素晴らしくても、そこに集う人が結果的に疲弊してしまう「やりがい搾取」に近い部分を持ち合わせているのかもしれません。

社会的に働き方の見直しが進む今、NPOで働く魅力を社会課題解決へのコミット、社会への貢献感など「やりがい」にとどめてよいのか?今、問い直す時がきていると思います。

ちなみに民間企業で「やりがい搾取」が続くと、スタッフは「取り返しに行こう」という発想に流れます。給与しっかりもらわないと割に合わない、使える制度は全部使ってしまおう、といった発想です。NPOでそういう意識に流れていくと、手に負えなくなってしまうのではないでしょうか。

NPOで働く人のワークライフバランスを高める

―「やりがい」の他にNPOで働く魅力にはどのようなものが考えられますか?

本来的には団体の営利・非営利関係なく同じような仕事であれば同じような賃金が支払われるべきと考えますが、構造的な問題を含むのであれば、NPOとして社会に声を上げていく必要があるのかもしれません。

金銭的な待遇が魅力にならないならば、むしろ働く人のワークライフバランスを高めていくことが、働く人にとっての魅力や報いになりますし、採用で人を惹きつけていくことにつながるのではないでしょうか。

―スタッフのワークライフバランスを高めていくための留意点はありますか

NPOに限らず、奉仕のマインドを持って長時間働くことを厭わないタイプの方は一定数います。またNPOの中には無償ボランティア・プロボノを活用している団体も多く、有償労働と無償労働の境目があいまいになりやすいかもしれません。

いずれにせよ、フルコミットできる人だけで回っている時代は終わりつつありますから、NPOに集う人たちの組織へのかかわり方、特に時間的なかかわり方を、組織として考えていくことが必要と思います。

その際に配置の工夫は必要でしょう。理想はwill/can/mustの重なる部分に仕事を創る、任させていくことですが、実際に可能かどうかは課題でしょうね。少なくともスタッフに「希望を汲んでくれている」と思われる取り組みは必要と思います。

NPOにおける「やりがい」には2種類が考えらえます。営業、プロジェクト推進といった「業務内容に対するやりがい」と、その結果得られる「社会への貢献」。

スタッフ側も、自分にとってのやりがいとは何なのか、自分の力はどこで発揮できるか、自覚しておく必要があります。

外部リソースの活用は重要なテーマ

dsc1685-26.jpg

―そうすると、限られた時間や人員の中でどうパフォーマンスを高めていくかという問いにぶつかります。

限られた人数で回すという課題は、企業において人事権を持たない中間管理職が直面している課題とそう変わりません。これは組織に共通する課題と思います。補充できないなら業務を切り出す。その時、誰にいくらで任せるのか。もしくは、業務そのものの見直し、仕分けを行うか。

ただ、小さい組織は代替がきかない難しさはありますよね。採用の難しさや、定着の問題もある。

NPOで正職員として働きたいという人は社会全体でみればマイノリティですから、ポストに人がはまらないということも多々あるでしょう。NPOにおける今後のキーワードは「外部リソースの活用」ではないでしょうか。

―私たちがこれまでNPOをインタビューした中でも、「外部リソースの活用」はキーワードでした。外部リソースには、ボランティア・プロボノといった無償労働だけでなく、長期的な信頼関係を築いているウェブデザイナーや組織コンサルタントなどもあてはまります。

そうですね、すべてを内製化することは難しいし、必ずしも必要ではないと思います。幅広く外部リソースを活用していくことが考えられます。

ところで、ママになってプロボノを始めたという話をよく耳にします。子どもを産むと、なぜ仕事をしているのか?自分自身は何がしたいのか?と根源的なところへ考えが向かう人が多い印象を持っています。また、第三の居場所が精神安定剤になるのかもしれません。副業解禁の流れもありますから、これからますますプロボノの活用は増えていくのではないでしょうか。

構造的な課題は、声を上げていけ!

―最後に、中野さんからNPOへのメッセージをお願いします。

今、フリーランスの働き方に関する議論が政府で取り上げられ、制度も変わりつつあります。もしNPOに、社会的な枠組みの問題で仕事と家庭の両立が妨げられる、もしくは勤務を続けることが難しい環境があるのなら、整理して、社会的に提起していく、もっと声を上げていくべきと思います。

―ありがとうございます。その一つとして、NPOへのインタビューを重ねる中で、助成金の使途用途制限のために組織管理部門にコストを割きづらい構造になっていることが課題としてあがりました。私たちも今後、このサイト等を通じて声を上げていきたく思います。

他にNPOに特有の点としては、組織内に無償労働と有償労働が混在しているので、給与や待遇のバランスを取ることが難しい点はあると思います。一方で、NPOの組織的な状況やマインドセット、両立推進における課題は、NPO特有ではなく、小規模の組織、特にスタートアップ企業と共通しているように思います。NPOに限らず、似た枠組みを持つ先行事例に学び、取組を進めてみてはいかがでしょうか。

NPO以外に目を向けると、厚生労働省の中小企業向けパンフレットや、民間企業の主催するベンチャーの人事労務担当者向け両立・ワークライフバランス推進イベントなどもありますね。

また本サイトと連動し、5月にはパブリックリソース財団から「NPOの両立取組事例集」(タイトルは仮)が発行される予定ですので、こちらも取組の参考にしていただければと思います。発刊は本サイトにてお知らせしますので、乞うご期待ください。

サステイナブルに組織を運営していくために、どういう人を、どうやって回すか。難しい課題ですが、NPOには多様な働き方を社会に提起していく、先端となっていくことを期待しています。

【中野円佳さん】ジャーナリスト。1984年生まれ。東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社に入社。育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に通い、同研究科に提出した修士論文をもとに2014年9月『「育休世代」のジレンマ』(光文社新書)を出版、2018年3月に『上司の「いじり」が許せない』 (講談社現代新書)を出版。現在シンガポール在住、2児の母。女性のスピークアップを支援する「カエルチカラ言語化塾」、海外で子育てとキャリアを模索する「海外×キャリア×ママサロン」を運営。東京大学大学院教育学研究科博士課程在籍中。

(インタビュー/編集 一般社団法人RCF 中澤裕子)

 

■「NPOではたらく×そだてる」について
「NPOではたらく×そだてる」は主にNPOの経営陣やNPOに関わる人、NPOで働くことに関心のあるみなさまへ向け、NPOで仕事と子育てを両立していくためのヒントとなる有識者インタビューやお役立ち情報、先行して両立推進に取り組むNPOの事例などを発信しています。
更新は月2〜3回です。継続して記事をお読みいただくには、Facebookのグループページに「いいね!」をクリックください。Facebookタイムラインに更新情報が表示されます。(無料、会員登録なし)